西王母が桃 三千年(みちとせ)の桃

桃の花開く季節がやってまいりました。梅から桃、そして桜へとつながれていく春色のバトン。桃は縁起の良い植物とされ、古代中国では、邪気を払い長寿をもたらす神聖な樹木とされていました。

仙人界の最高位の貴婦人、西王母の桃の庭園(蟠桃園)には、3,600本の桃の木があるとされています。手前の三分の一は「三千年に一度熟す桃」で、食すと仙人になり、中ほどの三分の一は「六千年に一度熟す桃」で、食すと空を飛べ、不老長寿になります。奥の三分の一は「九千年に一度熟す桃」で、食すと天地と同じ寿命が得られると言われています。そのため、「西王母が桃」「三千年(みちとせ)の桃」という言葉は、「非常に珍しくめでたいもの」「長寿」のたとえとして用いられます。

この西王母の庭園の管理人が、かの有名な孫悟空です。彼は西王母の生誕祭である蟠桃会(ばんとうえ)に招かれなかったことに腹を立て、奥の貴重な桃を食べ尽くし、蟠桃会で狼藉を働き、逃げ出しました。しかし、如来の手のひらから飛び出せなかった悟空は、五百年間封印されてしまいます。三蔵法師の弟子となるのは、その後です。

君がため 我が折る花は 春遠く 千歳をみたび 居りつつぞ咲く

(あなたのために手折った花は、春を遠く待ち続け、三千年に一度、花開き実を結ぶという桃の花です)

平安時代、紀貫之は「三千年(みちとせ)の桃」の伝説を踏まえ、この得難い桃花をあなたに贈ります、という雅な歌を作りました。能の演目のなかでは、西王母の化身が「桃花物言わず、幾年か過ぎた」「三千年ごとに実るという桃が、今年は花開く春に巡り逢った」と古歌を引くシーンがあります。時代を経て、色々な伝説、風習のなかで紡がれ言祝がれる桃の花。由来や伝説を知ると、手のひらに乗るような小さな可愛らしい和菓子でさえも、尊く得難く感じます。

日常の生活の中で、桃の花と接する機会は少ないですが、「桃色」という言葉はとても身近です。様々な明るい色が溢れだす春は、気持ちまで明るく弾ませてくれます。そんな春の色に負けないような、明るくて綺麗な色の本や、日常の奥深さを教えてくれる本が、ほんだらけにはございます。ぜひ一度お近くのほんだらけへお越しください。