紫陽花に、小さな雨粒が煌めきます。

梅雨が始まります。雨が降り、蒸し暑い季節で、体調や気持ちのリズムを崩しやすい季節ですが、GW明けの忙しなさを癒すためにも、家でゆっくり過ごすには良い季節なのかもしれません。

梅雨と言えば雨の中咲く紫陽花が、しっとりとして健気にうつります。紫陽花の語源ははっきりとはしていないそうですが、最も有力なものとして、「あづさあゐ(集真藍)」=「真の藍色が集まっている花」といったような意味合いであるとも言われています。紫陽花の花言葉と言えば、日本では、花の色やその色が変化する特徴から「移り気」や「あなたは美しいが冷淡だ」など、マイナスイメージのものが根付いていますが、西洋ではその限りではなく、ステキな花言葉を持つ花とされています。小さな花(萼)が寄り集まっている言葉から、「一家団欒」という花言葉もあり、最近は結婚式や母親への贈り物としても人気の花だそうです。

紫陽花の原産は日本で、万葉集でも、紫陽花が題材のうたが2首あります。そしてその描き方は、不思議なことに上記の点と共通するように、とても対照的です。

言問はぬ木すら紫陽花諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり(大伴家持)
—言葉や恋を語らない木でさえも、紫陽花のように移ろいやすいものがあります。ましてや、手管に長けた諸弟の巧みな言葉に、私は簡単に騙されてしまいました—

紫陽花の八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ(橘諸兄)
—あじさいが幾重にも群がって咲くように変わりなく、いついつまでも穏やかでお健やかでいてください、あなた。わたしはこの花を見るたびに、あなたを思い出しましょう—

(大伴家持のいう「諸弟」がどういう意味を持つのかは不明とされていますが、実は諸兄のことを指しているのではないか、という仮説もあるそうです。) もしもそうであれば、万葉集でこの二首がとても対照的に描かれていることにも、理由があるのかもしれません。
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華道家であり万葉の花研究家でもある著者が、万葉集に登場する植物約100種と歌を、美しい写真と文章を交えて解説した本。詠んだ人やその背景の歴史まで触れられており、日本名と万葉名が併記され、その花についてのいまではもうふつうには目にされなくなった和花も目にすることができます。頁を繰るだけで、目も心も癒してくれる1冊です。